Falco Feedsは、オープンソースに焦点を当てた企業に、新しい脅威が発見されると継続的に更新される専門家が作成したルールにアクセスできるようにすることで、Falcoの力を拡大します。

クラウドネイティブ化が急速に進む現代の IT 環境において、企業はこれまでにない速度でセキュリティリスクに晒されています。新しいリソースの追加、設定ミス、権限の膨張、マイクロサービス間の依存関係など、攻撃者が利用可能な「露出(Exposure)」は増え続けています。
こうした状況では、従来のように「月に一度スキャンをしてレポートを確認する」といった静的かつ事後的なアプローチでは、もはや防御が追いつきません。攻撃者は常に新しい経路を模索し、クラウド環境そのものが変化し続けるため、“継続的”な露出管理が必要不可欠となりました。
そこで注目されているのが CTEM(Continuous Threat Exposure Management:継続的脅威エクスポージャー管理) です。
CTEM は、クラウド・オンプレミス・SaaS を含む組織全体の攻撃対象領域を常時監視し、攻撃者が実際に利用できるリスクを特定・評価・検証・修復するための、最新の包括的セキュリティ戦略です。
本記事では、CTEM の基本概念から、その重要性、5 つのコアフェーズ、クラウドネイティブ環境との相性、導入時のポイントまでを体系的に解説します。
CTEMとは、攻撃者視点で“露出”を管理する新しい防御モデル
CTEM(シーテム、Continuous Threat Exposure Managementの略称、継続的脅威エクスポージャー管理)とは、組織の攻撃対象領域全体を対象に、脅威の発見・優先順位付け・検証・修復までを絶え間なく行う最新のサイバーセキュリティアプローチです。
従来のセキュリティ戦略は、定期的なチェックや事後対応に依存する傾向があり、環境変化のスピードに追従しきれないという課題がありました。一方 CTEM は、常に稼働し続けることで、リスク状況をリアルタイムに近い形で可視化し、もっとも重要なエクスポージャー(攻撃に利用されうる弱点)を迅速に特定します。
この継続的なモデルにより、組織は、新しい資産の追加や設定ミスが日々発生するクラウド中心のダイナミックな環境においても、攻撃者のスピードや手法の変化に遅れず対応し続けることが可能になります。
CTEM の目的は、単に問題を見つけることではなく、ビジネスインパクトが大きい問題に優先的に集中し、迅速に解決へつなげることです。
CTEM が必要な理由、クラウドと攻撃者の“変化”に対応するため
クラウドでは“見えない露出”が急増している
クラウド環境は、常に変化し続ける短命なワークロードで構成されています。
そのため、次のようなリスクが日常的に発生します。
- 一時的に作成した VM が、外部公開されたまま放置される
- Kubernetes RBAC の設定ミスにより、意図せず権限が拡張されてしまう
- セキュリティグループが運用の過程でドリフトし、本来の想定と異なる状態になる
- CI/CD パイプラインの Secrets が誤って外部に露出する
- SaaS の共有設定ミスにより、組織外へ情報が漏洩する
- 監視対象外の Shadow IT が自然発生し、把握できない攻撃面が増える
このような動的リスクに対して、月次スキャンのような定期チェックではリアルタイムの変化を捉えることができず、問題が発生した後に初めて気付く“後追い型のセキュリティ”にならざるを得ません。
攻撃者の戦術が脆弱性主体から“露出主体”に移行している
近年の攻撃者は、もはや CVE だけを起点に攻撃を仕掛けているわけではありません。
外部公開されたクラウドストレージ、不必要に広い IAM 権限、マイクロサービス間の通信経路、コンテナの誤設定、ソフトウェアサプライチェーンの露出――こうした “手の届く場所” にある隙を足がかりに侵入を試みます。
つまり重要なのは、脆弱性の数そのものではなく、攻撃が実際に成立する状況が存在するかどうかです。
環境変化が加速し、セキュリティ対策が追いつかない
環境変化のスピードは年々加速しており、セキュリティがその変化に追いつけなくなっています。
毎日のデプロイ、数時間で消えるコンテナ、一時的に付与される開発者アクセス権、マイクロサービスの再配置――。
こうした高速かつ断続的な変更は、静的なセキュリティプロセスでは捉えきれません。
そこで、CTEM のように「継続的・動的」にリスクを監視し続けるモデルが必要になるのです。
CTEM を構成する5つのコアフェーズ(構造化されたフレームワーク)
CTEM は、単一のツールや製品ではなく、5 つの重要なフェーズから構成される継続的なフレームワークです。
1. スコープの決定(Scope)
CTEM の第一フェーズでは、対象とする資産・環境・ビジネス領域を明確化します。
具体的には、社内インフラストラクチャ、クラウドサービス、SaaS アプリケーション、開発環境、Kubernetes クラスタ、さらにサプライチェーンにおける依存関係まで含め、組織全体の攻撃対象領域(attack surface)を定義します。
こうして資産の境界を明確にすることで、漏れのないエクスポージャー(露出)管理が可能になります。
2. 発見(Discover)
このフェーズでは、定義したスコープ内の資産について、既知・未知の脆弱性や設定ミス、公開状態、権限の過剰付与、認証情報の露出など、攻撃に利用されうる要素を継続的に洗い出します。
具体的には次のような項目が対象となります。
- 既知・未知の脆弱性
- 外部公開されたエンドポイント
- Kubernetes やクラウドサービスにおける設定ミス
- IAM 権限のスプロール(過剰付与)
- 暗号鍵・Secrets・認証情報の露出
- Shadow IT や未管理の SaaS 利用
クラウド環境のように変化が激しい基盤では、資産インベントリの自動化と継続的な更新が不可欠です。 この「発見」の精度と継続性こそが、CTEM 全体の成否を左右する基盤となります。
3.優先付け(Prioritize)
発見した露出は、すべてを評価し優先付けを検討します。このフェーズでは、ビジネスへの影響と攻撃成立の現実性に基づいて「どのリスクに優先的に対処すべきか」を判断します。
- 資産の重要度(Crown Jewel にどれだけ近いか)
- 攻撃者が実際に到達できるか(ネットワーク到達性・公開状態)
- 脆弱性の悪用可能性(Exploitability / 実行時リーチャビリティ)
- 既存の防御・制御手段の有無
- 事業への影響の大きさ(ビジネス・インパクト)
- 最新の脅威インテリジェンスとの整合性
これらを総合的に評価することで、“理論上存在するだけのリスク”と“いますぐ対処すべきリスク”を区別します。
例えば、CVSS 9.0 でも「攻撃者がアクセスできない場所」にある脆弱性より、 CVSS 5.0 でも「外部公開 × 認証なし」の方がはるかに危険です。
CTEM はこの現実的な優先順位を明確にします。
4.検証(Validate)
このフェーズでは、優先度の高い露出が 現実に攻撃に利用される可能性があるか を確認します。単に「リスクが存在する」という仮説ではなく、「攻撃が成立し得るかどうか」を検証します。
評価には、次のような手法が用いられます。
- 攻撃経路(Attack Path)分析
- BAS(Breach and Attack Simulation) による模擬侵害
- 攻撃者エミュレーション
- ランタイム挙動の検証(実行中プロセス・システムコールの観察)
これにより、数多くの露出の中から、修復すべき“本当に危険な”問題を確実に絞り込むことができます。 検証フェーズを通じて、対応リソースをもっとも重大な脅威に集中させることが可能になります。
5. 動員(Mobilize)
最後のフェーズでは、特定された露出に対し、修復(是正措置)します。 このフェーズでは、セキュリティだけでなく以下の複数の部署が関わります。
- セキュリティ
- IT / インフラ
- 開発(Dev)
- プロダクトオーナー
そのため、明確な責任分担と修復ワークフローの設計が成功の鍵になります。
可能な範囲では、IaC(Infrastructure as Code)による設定修正やポリシー適用など、自動化された是正措置を活用することで効率化が図れます。一方で、クラウド環境では状況判断が必要なケースも多いため、自動化と人の判断を組み合わせたハイブリッド運用が現実的です。
動員フェーズが適切に機能することで、CTEM は“可視化して終わり”ではなく、実際に露出を減らし続ける改善サイクルへとつながります。
CTEM を導入する際に押さえるべきポイント
CTEM を成功させるためには、単にツールを導入するだけでは不十分です。組織横断の体制と、継続的に改善できる運用の仕組みが必要です。
以下のポイントを戦略的に整えることで、CTEM は高い効果を発揮します。
1. 目標と成功指標(KPI)の設定
あいまいな状態で CTEM を開始すると、効果測定ができず形骸化しやすくなります。
まずは次のような指標を明確にします:
- 露出削減率
- 設定ミスの再発防止率
- MTTR(平均復旧時間)の短縮
- クリティカル露出の対応完了率
「何を持って成功とするのか」を定義することが、CTEM 成功の土台になります。
2.経営層・関係部署の支援体制
CTEM は SecOps だけが担うものではありません。
開発、IT、SRE、プロダクトオーナーなど、複数の部門が関与するため、
- 経営層による承認やオーナーシップ、後押し
- 役割と責任の明確化(RACI)
- チーム横断のコミュニケーション体制
が不可欠です。
3. ツールとデータ源の統合
CTEM は“複数のデータを統合して初めて成立する”フレームワークです。次のようなデータソースを横断的に活用し、統合的な露出管理を実現します。
- CSPM(クラウド設定ミス)
- CIEM(権限・アイデンティティ管理)
- CWPP(ランタイム挙動と脆弱性)
- DSPM(データ保護・機密データの位置把握)
- 脅威インテリジェンス
- 資産インベントリ(自動更新)
発見・優先付け・検証・修復の各プロセスで同じデータを参照できることが重要です。
4. 自動化の推進(ただし人とのハイブリッドが最適)
自動化の徹底は、運用負荷を最小化するためのもっとも効果的な手段です。
- IaC による自動修正 PR
- 過剰権限の自動縮小
- ポリシー適用の自動化
- アラートノイズ削減
ただし、クラウドでは文脈依存の判断が必要な場合も多く、「自動化 × 人の判断」を組み合わせたハイブリッド運用が現実的です。
5. 長期的な露出指標のトラッキング
クラウドは常に変化しているため、継続的な露出管理が前提です。
追跡すべき指標の例:
- 露出レベルの月次推移
- 修復までのリードタイム
- 設定ドリフト発生頻度
- 本番環境に残存するクリティカル露出数
これらを継続的にトラックすることで、CTEM の改善サイクルを維持できます。
まとめ|CTEMはクラウド時代の防御を根本から変えるフレームワーク
継続的な脅威エクスポージャー管理(CTEM)は、セキュリティ運用の進化形であり、従来の「定期的な評価」から、リスクに応じた継続的な修復と最適化へと重心を移すアプローチです。
組織がクラウドネイティブ技術や分散型アーキテクチャを採用し続ける今、CTEM は、急速に変化するエクスポージャーをリアルタイムで管理するための、スケーラブルかつ適応性の高いフレームワークを提供します。
CTEM を人・プロセス・テクノロジーに組み込むことで、セキュリティチームはより効果的にリソースを優先配分でき、エクスポージャーウィンドウを短縮し、回復力の高いセキュリティ運用を実現できます。